
最近、戸籍のフリガナ記載が始まったことで、ご自身の戸籍を改めて確認される方が増え、「あれ?この字、普段使っている字と違うな…」と気づかれるケースが増えています。
私自身も「師岡」という氏ですが、私の戸籍に記載されている「岡」の字は、戸籍上は俗字と呼ばれる、常用漢字ではない字です。日常生活では特に不便を感じることはありませんが、公的な手続きや証明書を扱う際に、文字が異なっていることで、確認に時間がかかったり、手続きが複雑になったりすることがあります。
今回は、自身の経験を踏まえてこの戸籍上の俗字を常用漢字に訂正する方法と、その際のメリット・デメリットについて、コラムとしてまとめたいと思います。
なぜ戸籍に「俗字」が使われているのか?
まず、なぜ戸籍に常用漢字ではない文字が使われているのでしょうか。これは、戸籍の歴史と関係があります。戸籍に記載される文字は、明治時代以降の旧字体や俗字も、その当時の基準で正しく記載されていれば有効な文字として扱われてきました。
戸籍法には、「人名に用いる文字」として、法務省令で定められた文字を使用することが義務付けられています。しかし、この規定はあくまで**「新しく戸籍を作る際」や「出生届を出す際」**のルールです。すでに存在する戸籍の文字については、その当時の慣習や使用されていた文字がそのまま引き継がれてきました。
そのため、ご先祖様から代々受け継がれた戸籍の中には、現在ではあまり使われなくなった旧字体や、地域特有の俗字が含まれていることがあるのです。
戸籍の文字を「訂正」する手続き
戸籍上の文字を訂正する方法は、本来は家庭裁判所での許可を必要とする「氏または名の変更」となります。
ただし、戸籍の氏または名の文字が俗字や誤字で記載されている場合において、これに対応する正字等に訂正する申出があったときは、市区町村長限りで訂正して差し支えないとされています。
この手続きは、戸籍の筆頭者とその配偶者が行う必要があります。
- 市町村役場への「申出」
- ご自身の本籍地または所在地の市区町村役場に、訂正の「申出」を行います。
- 申出には、戸籍の筆頭者およびその配偶者(同一戸籍に配偶者がいる場合)の連名での届出が必要となります。
- この手続きには、特定の書式(申出書)が用意されている場合が多く、事前に役所の窓口で確認することをお勧めします。
- 申出の際には、戸籍謄本(本籍地で手続きする場合は不要)や、届出人の印鑑などが必要になります。
- 訂正の範囲
- この手続きで訂正が認められるのは、あくまで「俗字」や「誤字」を、それに相当する「正字」(常用漢字など)に直す場合です。
- 例えば、「髙木」さんの「髙」の俗字を常用漢字の「高」に直すようなケースがこれにあたります。
- 全く別の漢字に変更したり、戸籍の文字そのものを変更したりする場合は、従来通り家庭裁判所の許可が必要となります。
- 戸籍への記載
- 申出が受理されると、戸籍の事項欄に「俗字の〇〇を正字の〇〇に訂正」という形で記載されます。
戸籍の文字を訂正する際のメリット・デメリット
この手続きを行うことで、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
メリット
- 公的な手続きの円滑化
- 運転免許証やパスポートなど、公的な証明書と戸籍の文字が完全に一致するため、手続きがスムーズになります。
- 銀行や保険会社など、民間企業での手続きにおいても、文字が異なっていることによる確認作業が不要になり、時間の短縮につながります。
- 子や孫への影響をなくす
- 戸籍の文字が訂正されることで、今後生まれてくるお子さんの戸籍にも常用漢字が引き継がれます。
- お子さんや孫の世代が、ご自身の戸籍の文字で悩むことがなくなります。
- 社会生活上の不便の解消
- 特に医療機関など、人名を正確に記載する必要がある場面で、文字の間違いが起きにくくなります。
- 名刺やSNSなど、社会生活で自己紹介をする際に、戸籍の文字と常用している文字を使い分ける必要がなくなります。
デメリット
- 変更後の手続き
- 戸籍の文字を変更すると、特にマイナンバーカードなど、俗字で記載されているあらゆる書類の名義変更手続きが必要になります。
- これらは一つひとつ手続きを進める必要があり、時間と労力がかかります。
- 戸籍の「歴史」が変わる
- ご先祖様から受け継がれてきた戸籍の文字を変更することになります。戸籍は、その家の歴史を示すものでもありますので、この点をどう捉えるか、という精神的な側面も考慮する必要があるかもしれません。
まとめ:訂正は「必要性」と「負担」のバランスを考えて
戸籍の俗字を常用漢字に訂正する手続きは、家庭裁判所の許可を必要とする「変更」よりも簡便ですが、手続き後の名義変更などの負担も考慮する必要があります。
戸籍の文字が俗字であること自体は、決して悪いことではありません。しかし、その文字が原因で、社会生活上の不便や将来的な不安を感じるのであれば、それは解決すべき課題と言えるでしょう。